交通事故により被害者が死亡した場合、生存していれば得られるはずだった収入(給料や自営業の利益など)を得られなくなります。
このように、事故に起因する死亡によって得られなくなった利益のことを「死亡逸失利益」と呼んでいます。
死亡逸失利益については、いったん被害者の方に損害として発生した後、その賠償請求権が相続人の方々に相続されると考えられています(相続説)。
例えば、40代男性会社員のAさんが事故で亡くなり妻と長男が相続人になる場合、Aさんが40代~60代に働いて獲得するはずだった利益を、妻と長男が2分の1ずつ相続するというわけです。
上記については、「『被害者が死んだことによる損害賠償請求権』が被害者本人に発生した上で、その後に相続人に相続されるというのはおかしくないか?」という理論的な疑問が指摘されているところですが、判例や実務の取り扱いは相続説で固まっています。
赤い本によれば、死亡逸失利益については
基礎収入 × (1-生活費控除率) × 就労可能年数によるライプニッツ係数
という算定方式により計算するものとされています。
「基礎収入」は、被害者の年収などにより算定します。
「生活費控除率」は、収入の何割がご本人の生活費として費消されるかという割合を示す概念です。
「就労可能年数」とは、ご本人が事故で死亡していなければ、後何年くらい働けたか、を示す概念です。赤い本では、原則として67歳まで働けるものとして計算します。
「ライプニッツ係数」は、将来受け取るべき金額を前倒しで受け取るに当たり、その間の利息を控除するために用いられる数値です。
例えば、「50年後に受け取る筈だった100万円を今受け取る」という場合に、「50年分の利息を差し引いて受け取る」ことが公平と考えられますが、そういう計算のために用いる係数とご理解ください。
以上では、死亡逸失利益の計算について大雑把な説明をしましたが、「基礎収入」、「就労可能年数」、「ライプニッツ係数」といった概念の詳細については、「後遺障害逸失利益」におけるそれとほぼ同じような内容になりますので、そちらをご参照ください。
なお、死亡逸失利益に特有の問題として、「生活費控除」というものがあります。
この点、後遺障害逸失利益であれば、単純に「得られるべき収入が失われた」ということだけを計算すれば良いわけですが、死亡の場合には、他方で「本来かかるはずだった被害者の生活費(食費、住居費等々)もかからないことになった」という事実がありますので、その部分を考慮する必要があるわけです。
このような生活費控除について、赤い本では、
とされております。
例えば、専業主婦の妻と子どもが1人いるサラリーマン男性であれば、「被扶養者2名」となりますので、生活費控除は3割となります。
この場合、収入の3割は自分の食費等に使うが、7割は妻子のために使ったり残したりするであろうというみなし方になります。
これが、独身男性である場合、養う家族がいないので自分の飲食費や趣味等のために半分くらいは使ってしまうであろうとみなし、5割を控除する、というわけです。
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